ブックレビュー：「第二進化」A・G・リドル　ハヤカワ文庫

　9.11の同時多発テロから10数年、南極の氷の中から潜水艦が発見される。時同じくして、再び世界的規模でテロが発生。襲われたのは対テロ諜報組織クロックタワー。はるか昔から活動を続ける秘密組織イマリがクロックタワーを壊滅させ秘密の計画を発動させたのだった。

　以前より、イマリを追うクロックタワーの諜報員デビッド。ジャカルタの研究施設で、遺伝子治療、自閉症児の研究をするケイトは、その世界的混乱に巻き込まれていく。そして、恐ろしい”トバ計画”が、人類に次なる進化を強制的に促す始まりであると確信する。

　人類を次なる段階に引き上げるために、膨大な人命を犠牲にするとは、ガンダムに出てくるあの赤い狂人の様だけど、アメリカのA・G・リドルが、2013年に個人出版した「第二進化」、アトランティックジーン三部作の第一部である。出版社の目にとまり、ベストセラーとなり、日本では、ハヤカワ文庫から2016年に出版、映画化の話も進んでいる。

　ラドラムやカッスラーの様な諜報スリラー、謀略ものスリラーかと思いきや、いきなり、南極の氷の中から潜水艦が出てくる。

　全ての謎を解くアトランティック遺伝子の秘密をもつケイトが、敵のターゲットとなり、デビッドと合流した二人は幾多の苦難に見舞われる。ジャカルタ、チベット、インド、スペインと舞台が変わるうちに、世界規模のテロは、爆発的な感染力を持つパンデミックに変わり、ジブラルタルの岩塊の地下に眠るアトランティス伝説の遺跡に辿り着く。そして、アトランティック人なる宇宙人の遺伝子改変により強制的に旧人から新人に変異させられたのが現人類だと知る。そして、それらをめぐるとんでもない話の数々、、、、

小さい頃からオカルトや、雑誌「ムー」に出てくるトンデモ系の話に馴染みのある人なら、笑わずにはいられないネタがオンパレード。

アメリカ人でもこういう話が作れるということは、トンデモ系の書籍や、最近ならネットで普通に流布しているのだろうか？以前読んだ、カート・アンダーセンの「ファンタジーランド 狂気と幻想のアメリカ」によると、人類の先頭を走っていそうな、最も合理的と思われている国が、実は迷信や非合理的な思考の塊であることがわかる。トランプのQアノン以降、謀略論全盛のアメリカ、今では日本の主婦の中にも謀略論を語り始める人がいるそうだ。

21世紀だというのに、宗教が暗殺事件の引き金だったり、科学で考えない人、地球平面説など非合理思考に身を委ねる人がいたり、人類はどうなっていくのであろうか？

「第二進化」は、純粋にトンデモ系の話がSFに昇華していくところが楽しいのだが、人類はこの先どういう進化を遂げるのだろう。無茶に人類の目を覚ませようとする赤い狂人は出てきて欲しくないのだが。